青さについて

Kiss Mintとカロリーメイトとファイブミニみたいな青春

Out of the mosh pit

昨夜、大阪の十三シアターセブンにて映画「モッシュピット」を鑑賞した。
 

2015年9月にHave a Nice Day!というバンドがリリースしたアルバム「Dystopia Romance」の購入方法にクラウドファンディングを設け、出資額が100万円に到達すれば恵比寿リキッドルームにて開催予定のリリースパーティーをフリーイベントにする。

本作は、そんな壮大な企画を現実のものとしたHave a Nice Day!(以下ハバナイ)、NATURE DANGER GANG(以下NDG)という2組のバンドと、おやすみホログラム(以下おやホロ)という1組のアイドル、そして彼らを取り巻くファンやスタッフを含めた大勢の当事者たちの奇跡の一夜を17台ものカメラで追ったドキュメンタリー作品となっている。
日本の商業主義を取る音楽業界の輪からはかけ離れた、東京アンダーグラウンドと呼ばれるシーンに生きる彼らが「ロックンロールにドリームとロマンスを取り戻す」べく生み出した美しいモッシュピットとは一体どういったものなのか。
そして彼らの音楽活動の今後はーーーーーー
 

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先に断っておくと、私はモッシュが苦手である。

大学で軽音サークルに所属していた私がこれまで見てきたモッシュとは、四つ打ちのJ-ROCKに体を上下させ人差し指を突き上げるようなものや、スクリーモ系のハードコアバンドの客が暴れ回り怪我人が出る戦場のようなものばかり。
それらを後ろで腕を組み、片足でリズムを取りながら傍観するのが私の鑑賞スタイルだった。
 
そんな私があの戦渦の中に初めて身を投じたのは、2014年のボロフェスタでのNDGのライブ。
モッシュに参加した要因はユキちゃんに初めて会えた興奮によるものではあったが、この時それまでの自分ではないような、普通でなくなってしまったような感覚に陥り、何故だか気恥ずかしくなったことをよく覚えている。
 
ハバナイやNDG、おやホロのフロアを埋めるファンやオタクたちの中には、ただ楽しいだけではなく、おそらくそういった感覚を持ってあの渦や波を作り出している人もいるはず。
モッシュに参加するだけの話であれば、他のバンドや音楽シーンでも当たり前に起こっていることかと思う。
しかしこの東京アンダーグラウンドというシーンではバンドとアイドルが当然に共存しているのだ。
バンド系の音楽ばかり聴いてきた自分にとってこのことが既に他のシーンとは一線を画す魅力であるとも思っていて、同時にそれは長く続くものでないという現実を皆認識しているが故の「ドリームとロマンス」なのではないかとも考えてしまう。
 
ハバナイがリリースパーティー直前に公開した新曲「Blood on the mosh pit」のPVの中でフロントマン浅見北斗はこう言った。
 

ブルーハーツの歌う

“決して負けない強いチカラ”とは何なんだろうか

オレは最近それが“信じる”ってことなんじゃないかって思ってる

とてもシンプルなことだけど

本当の意味でこれを手に入れることが出来る奴はごくわずかだ 

 

皆が皆、普通でない東京アンダーグラウンドの魅力を絶対的に信じている姿、眼差し、足掻きをこの映画はモッシュという形で捉えている。
 
メジャーなバンドやアイドルであれば1000人キャパの恵比寿リキッドルームを満員にすることなどたわいも無いことだろう。
しかし普段の動員数が100人程度のハバナイ、NDG、おやホロにとってそれは化物に挑むかのような無謀な挑戦だったと思う。
しかし結果的に300人を超える出資者から120万円もの資金を集め、925人を動員した。
あの奇跡の一夜に集まった演者、スタッフ、ファンたちこそが、恵比寿リキッドルームという化物の肉体の中をモッシュという形で流れる血液-Blood-だったのではないだろうか。

それこそがDOMMUNEのインタビューで浅見が涙ぐみながら、再現したいと語った「普通でない景色」なのではないだろうか。

京都に住む私はあの夜その場に行くことが出来ず悔しい思いをしたが、このドキュメンタリー映画を通してあの美しいモッシュピットを目撃すれば、まだ東京アンダーグラウンドの当事者になることはできるはずだ。



モッシュピット〜プロローグWEB版 本編5/21(土)〜レイトショー公開!!

 

この映画ではリキッドルームでのフリーパーティーの成功への道のりと並行してNDGのMMEEGG!!さんの脱退やハバナイへのライバル意識、おやホロのアイドルとしての在り方に対する苦悩なども捉えている。

そして5月25日のワンマンライブを以ってハバナイからシンセのさわちゃんも脱退した。

個人的な思い出だが、メグさんとはユキちゃんを介してたくさん喋ったり、フルーツサンドを食べに行ったりと仲良くしてもらったし、さわちゃんには煙草吸いながらユキちゃんとのことを惚気たりもした。

本人から少しだけ話は聞いていたし、私はメンバーでも何でもないので口出しなどできなかったけれど、ただ、寂しい。ただ、それだけ。

だが、もう2015年と全く同じ熱量のライブを体感することは出来ないかもしれないが、変わりゆくバンドの体制にかかわらずファンの皆の力でもまた違った熱量を魅せることは出来るはずである。
私たちはそんな自分たちで作り上げることのできる音楽シーンを絶対的に信じていたい。

映画館というモッシュピットの外側からそんなことを考えていた。