青さについて

Kiss Mintとカロリーメイトとファイブミニみたいな青春

THE PROUST EFFECT

マルセル・プルーストが私の物語を記したなら、きっとミロを粉のまま頬張る様を描写したに違いない。

 

フランスの文豪である彼の小説『失われたときを求めて』の中に、紅茶にマドレーヌを浸したその香りで主人公の幼少の記憶が蘇るというシーンがある。

この現象は「プルースト効果」と呼ばれ、科学的に解明されているらしい。

嗅覚や味覚の記憶は薄れにくく視覚や聴覚といった他の感覚と違い、海馬や扁桃と直結しているため人間の本能的な行動や感情に直接作用するのだという。

 

そんなことはどうでもいいペディアで、先ほど母校の大学の近くのラーメン店に行ってきた。

背脂醤油ラーメンのチャーハンセットが好きで、学生時代にゼミ終わりやバンド練習終わりによく通った。

奥の座敷席でラーメンをすすり、煙草を摘んで友人と駄弁を振るった。

 

そんな思い出深い店が今週末で閉店するという。

しばらく食べていなかったこともあり、折角なので行っておこうと仕事終わりに足を運んだ。

一口目で光り輝く学生時代が蘇るだろうな、という予想に反して私が最初に思い出したのは一足の靴のことだった。

 

私は大学4回生の頃、セーラー服をイメージしたハイカットのコンバースを履いていた。

いつものようにそのラーメン店の座敷席に向かいコンバースを脱いだとき、セーラー服の襟があしらわれた足首に触れる部分の生地に穴が空いていることに気づいた。

そのことが恥ずかしくて私は同席した友人に気づかれないようコンバースを友人の靴とは遠ざけて置いたのだった。

 

この回想がプルースト効果に該当するかは分からないが、これほどまでに失われても構わない記憶をも呼び起こせるのかと嗅覚や味覚の記憶の絶大さを実感した。

折角なら淡い記憶を思い出し涙でも流してみたかったものだが、ラーメン店ではそうもいかないらしい。

 

冬が終わって、また様々な匂いが街に溢れるそのとき。

ハッと足を止めて感傷に浸る、そんな一人劇のハイライトが私を待っているのかもしれない。

呼び起こされるそれが人生の根幹か、青春の残滓か、恋の破片か。

未だ見ぬ昔の自分との対峙を、私は心を弾ませ恐れているのだ。

 

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