青さについて

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4月で3年間勤めた信用金庫を退職することに決めた。

再就職先は未定だ。

3年間で預金係、融資係、法人営業と営業店で出来る限りの仕事をし尽くした結果、自分に金融という業種が合ってないと判断した末の決断だった。

 

そもそも信用金庫とはどういう仕事をする会社なのか。

業務内容は銀行と同じだ。

お客様からお預け頂いた大切なお金を、事業資金が必要な法人や個人事業主、住宅や車の購入資金が必要な個人のお客様に貸し出す。

預金を払い戻すときには利息を付与し、貸出金を返済してもらうときには利子を頂戴する。

利息より利子の方が金額が大きいため差(利鞘)が生まれ、これが金融機関の利益となる。

その他手数料収入などもあるが、基本的にはお金を預けてもらい、お金を貸し出すことが金融機関人の使命だ。

私はこれを生業とすることをあまり深く考えずに入社したように思う。

銀行ではなく信用金庫を選んだ経緯として、取引対象先が中小企業や個人事業主に限られ、地域に根ざすことができる点、京都という生まれ育った町の発展の一翼を担うことができるという点が挙げられる。

採用面接においても志望動機としてこれらを主張したが、勿論嘘ではない。

嘘ではなかったが、ただ覚悟が足りなかった。

 

人事異動による人繰りの都合もあり、窓口での接客応対と事務しか知識がないにもかかわらず2年半で営業として外に出る羽目になった。

最初は不安しかなかったが、やることはある程度決まっている。

自分の担当顧客の業態を理解し、困っていることを聞き出し、解決策を思案し行動に移す。

それが例えお金を貸すことであっても、経営改善のアドバイスであっても、仕入先や販売先、物件の紹介であっても、利益に繋がらないことであってもお客様の力になれることには尽力する。

そうして仲を深め、未来の更なる取引に繋げる。

レート面では他の金融機関に劣るため、お金を預けてもらえるかどうか、お金を借りてもらえるかどうかはその過程があってこそだ。

また、新規開拓でそういったお客様をたくさん増やしていかなければ、営業として未来はない。

情けない話だが、私はそういった過程を含め、結果があまり振るわなかった。

その上、どんなに力になりたくても、できる限りのことを尽くしても、自分の担当顧客の経営が傾いていく様を目の当たりにすることがつらかったのだ。

諸先輩方からすれば、そんなもんいちいち気にしてたら身が保たんよ、と一蹴されてしまいそうだが、本当に身を保たせる自信が私にはなかった。

勿論お客様との絆を深め、役に立ち、感謝された例も多々ある。

しかし経験やスキルが足りないのは当たり前として、それらを身につけていったとしても一生この仕事を続けるのか、と思うととてもじゃないが耐えられなかった。

結果、逃げるような形で退職を決めたのだ。

 

退職を決めたいま、じゃあどんな仕事が向いているのか?と問われれば正直なところ自分でもはっきりとは分からない。

ひとつ言えることは、他人に共感、感情移入し過ぎてしまうことが有利に働く仕事に就きたいと思う。

金融でもそういった性格を武器にすることはできるかもしれないが、あまりダイレクトに他人の人生を左右したくはない。

人生の分岐点だ。

自分と向き合うことに必死で、不安だ。

 

時に、私には「性格の良いギャルの主任」と勝手に呼んでいる入社から世話になった大好きな先輩がいる。

預金窓口に座っていた頃、直々に仕事を教わり、時にはふざけ合い、時には叱られた思い出深い先輩だ。

いまは産休に入られ、私が退職するまでに一緒に働くことはないのだが、ある日制服を返却するため職場に来られたことがあった。

私は直属の上司と支店長と相棒の同期にしかそのときはまだ退職の旨を伝えていなかったが、主任にはどうしても言っておかなければ、とすべてを告白した。

ある程度形式ばった激励の言葉が返ってくるだろうと踏んでいたが主任が発したのは意外な台詞だった。

「まだ26歳の男の子やもん。何にでもなれるのが羨ましいわ。まぁ転職以外にも色んな人生があるから、あんたなりに頑張り。」

そうか。転職のチャンスを持っていることや、未婚であること、若いということは十分な武器なのか。

そうか。色んな方法で人生を拓けるのか。

ありきたりなことのように思えるが、日々を共に過ごした大好きな主任の口からそれを聞かされると自ずと元気が出てきた。

自身の不安よりも、お世話になった主任のためにも良い報告が出来ればいいなという考えが頭の中で優先された瞬間だった。

 

 

 

3月末に、半年間乗り続けたスーパーカブの掃除をした。

そのときも感慨深いものがあったが、最後の最後にそのスーパーカブでお客様のところに訪問しようとアクセルをひねったときに前輪がいきなりパンクしたことにも意味深なものを感じた。

代わりに内勤用のスーパーカブを使うこととなったが、このスーパーカブも私が営業に出る前に集金担当として1年間、週3回乗っていた思い出深いものであったことを思い出した。

営業用のスーパーカブと違い、内勤用はポンコツだ。

エンジンがハンドルのボタンでは上手くかからず、キックを使わなければならない。

 

前に進むために蹴って、蹴って、蹴って、走り出した。